高専実践事例集V |
工藤圭章編 高等専門学校授業研究会 1998/12/20発行 |
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T 感動させます
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●ドイツ・バイロイト便り(250〜266P) ドイツの「専門大学」 大久保清美 沼津工業高等専門学校助教授 |
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はじめに |
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ドイツ人に高専のことを紹介する際に筆者は、Fachhochschule (専門大学、以下FHと略す)という単語を使うことにしている。日本とドイツの学校制度を比較する時、日本の高専に最も近いと思えるのは、このFHだからである。幸い筆者は現在、平成九年度文部省在外研究員として、ドイツ・バイロイト大学にて比較ドイツ文化論 (Interkulturelle Germanistik) の研究を行っている。そこで、この地の利を活かして先日、バイロイトから電車で約一時間の所にあるニュルンベルクのゲオルク・ジーモン・オーム専門大学(Georg-Simon-Ohm-Fachhochschule N@rnberg以下、FHNと略す)を訪問してきた。もうお気付きの読者もいらっしゃるだろうが、このFHは、「オームの法則」の発見者として名高い物理学者ゲオルク・ジーモン・オームの名前を校名に冠しているのである。しかし、その経緯については、あとで述べることにする。
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一 FH(専門大学)とは |
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ドイツのFHはドイツ特有の学校制度である。その歴史はまだ浅いが、その人気は急速に高まっている。すでに現在、高等教育機関入学者の約四分の一がFHに入学するに至っている。その数は設立当初の五倍に上り、その間の卒業者数は、全高等教育機関卒業者数の35パーセントに上っている。(数字が合わないのは、大学入学者の平均30パーセントが卒業できないまま途中で脱落するからである。)特に工学の分野では、高等教育機関卒業者数の半分以上がFHの卒業生で占められている。 一・一 特徴(実践的職業教育、比較的早い卒業) 学生にとって魅力的なのは特に、大学に比べてより早く職につけることである。効率的に組織化された教育課程、小人数授業、職業実践の必要性に合わせた授業課目が、大学に比べてより早い卒業を可能にしている。 一・二 FHの歴史 FH設立の議論は六十年代後半に溯る。ドイツ経済を国際競争の中で競争可能なものとして維持する必要性から、実際的課題を学術的専門教育の基礎の上に立って迅速かつ成功裏に解決できる能力を持った人材の養成が急務となった。そして、そのような要請から、数多くの新設大学と並んで、FHも設立されるに至った。残念ながらFHについての資料はないが、大学については、1969年から1975年までの間に、22もの州立(すなわち国立)大学が新設されている。 一・三 多様性 1996年現在で、全国に130以上のFHがある。それと並んで、約30の行政当局内のFHもある。これは連邦や州によってその独自の目的のために運営されており、それゆえ、ドイツの公職に就いている者のみしか門戸は開かれていないが、これらはすべて州立(すなわち国立)である。ということは、授業料はただである。その他に約三十の、州によって認可された私立のFHがあるが、これは大抵、教会によって運営されている。(ニュルンベルクにもFHNの他に、プロテスタント教会の運営する私立のFHがある。)ちなみに、大学(Universit@tおよびHochschule)の総数は約160であり、これらも大部分が州立(すなわち国立)である。 一・四 学生数 FHの学生総数は、1993年の統計で、約44万人、内、外国人約2万4千人。共に高専に比べて、遥かに大きい数字である。ちなみに、入学の学生総数は、約143万人である。しかし、先にも書いたように、大学での脱落者が多いため、卒業者数の比で見ると、FHと大学とでは、およそ1対2に縮まる。 7 一・五 地域密着性 日本の高専もそうであるが、ドイツのFHも、比較的小さな、あまり有名でない町にあることが珍しくない。例えば、筆者がいるオーバーフランケン地方にも、コーブルクとホーフ(先に触れたビールの産地)にFHがあるが、こういう町の名前をご存知の読者は少ないだろう。 一・六 就職 筆者がFHNを訪問した際応対して下さったファルゲル女史がとにかく自慢げに強調したことは、FHは就職が良いということだった。彼女によれば、大学生は理論ばかりやっていて、役に立たないそうである。それはともかく、それでは具体的にどんな学生がどんな所に就職しているのか資料を見せてほしいというと、それは無い、と言う。いかにもドイツらしい話である。ドイツでは、日本のように教授が就職の世話をしたりすることはない。そもそもゼメスター制だから、三月に卒業する学生もいれば、九月に卒業する学生もいる。したがって、日本のような「就職シーズン」もない。学生は、学校を卒業したら、資格と実力だけを頼りに、自分で道を切り開いて行かねばならない。これがドイツ流である。したがって、FHも誰がどこに就職したかなどは追跡していないという訳なのである。 一・七 国際性 このように地域に根を下ろす一方で、FHはまた、外国の大学等と協力協定を結び、学生、教員、教材等の交換・交流を促進し、実習生の相互の受け入れが可能となるよう、努力している。
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二 組織、施設 |
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二・一 教員 教授、講師陣は、その学問的資格・能力と並んで、通例また実務経験を持っている。自らの専門領域において、少なくとも五年の実務経験が要求されている。 二・二 学長 FHの組織は、大学に似ている。最高責任者は学長であり、それを数人の副学長が補佐する。それと並んで、行政官の事務局長がいる。議決機関は、学長、副学長、事務局長、およびその他の教職員、学生の代表からなる全学会議(FHNでは119名)と評議会(FHNでは32名)であり、その任務は、研究・教育問題、学則、試験規定、教員の任用、各学科の人員・設備等についての協議・決定であるが、特に研究・教育問題および教員の任用については、教授人の意向が絶対的である。 二・三 学科構成、その他 FHは各学科によって構成されている。学科を主導するのは学科長である。専門教育は各学科毎に行われる。その際、ひとつの学科がいくつかの専門教育を包括することは可能である。それと並んで、例えば、法学、社会学、語学等の、多くの専門科目に必須の、一般的、基礎的課目に責任を負う学科がある。ただし学生は、この学科を卒業することはできない。
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三 教育課程 | |||||
三・一 入学資格 FHの入学者の一般的コースは、四年間の基礎学校(Grundschule)、六年間の実業学校(Real-schule)、二年間の実業高等専門学校(Fachoberschule)を経て、専門大学入学資格試験(Fachhochschulreife または Fachhochschulabitur)に合格するというものである。日本の学校制度と比較した場合、FH入学以前に合計十二年間の勉強が必要なので、FHへの入学年齢は、日本の大学の入学年齢と同じということになる。 三・二 学期(Semester)と学期間休暇 冬学期は九月または十月(州によって異なる)に、夏学期は三月または四月に始まる。一学期の長さは半年であるが、講義期間は通常、四ないし五ヶ月間である。 三・三 標準八学期 「標準」八学期(すなわち四年)で卒業要件が満たせるよう、カリキュラムが組まれている。その内、通常、六学期間は学内での講義等に当てられるが、二学期間は学外での実習が義務づけられている。この学外実習については、将来的には更に強化される予定である。また、理論・研究により多く重心を置いている大学の学生に比べ、FHの学生は、「標準在学期間」をオーバーする者の数も少ないし、またその期間も短い。 三・四 基礎課程と本課程、試験 教育課程は、基礎課程(Grundstudium)と本課程(Hauptstudium)との二つに大きく分けられる。基礎課程は、最初の二ないし四学期間であり、中間試験(Zwischenpr@ng)または予備試験(Vorpr@fung)と呼び名は学校毎に異なるが、同じものの合格をもって修了と見なされる。本課程の終わりには卒業試験(Abschlu@pr@fung)がある。この課程および試験制度は、基本的に大学と同じである。また、試験期間は、毎学期の講義期間終了時に設定されている。 三・五 実習学期 先にも述べたが、FHでは、一ないし二学期間の学外での実習が教育課程に組み込まれている。学生は大抵、第三学期および第六学期に学外実習を行う。第三学期には基礎的・導入的な実習が、第六学期には、より職業に密着した実習が行われる。その際、学生は、FHの実習学生課の助けを借りて、地域、ドイツ国内、あるいはまた外国の企業等(留学生が自国で実習する場合がある)に、適当な実習先を自分で探さなければならない。この実習学期間中も、それに添った講義やゼミがFHで行われる。例えば、毎週金曜日に実習学生達が学内に戻ってくる。実習期間中の学生のコントロールの意味も兼ねているのだろう。また、実習学期間の最後には試験も行われる。なお、FH入学以前に専門に関連した職業教育を受けた者については、この実習期間の短縮が認められる場合もある。 三・六 卒業、学士(FH) FHの卒業生に授与される学位は「学士(FH)」“Diplom(FH)“であり、括弧付きのFHを付け加えることによって、大学の「学士」“Diplom“とは区別される。例えば工学では、Diplom -Ingenieur(FH)となる。卒業要件は、実習を含む標準八学期の課程修了、より広範にして自立的、また応用的かつ学問的な卒業論文の提出、そして筆記および口頭で行われる卒業試験の合格である。 三・七 講義、演習、ぜみなーる、実験実習 講義、演習、ゼミナール、実験実習は、全てのFHに共通である。そして、これらの授業課目への一定以上の出席は義務づけられており、それは、成績証明書によって証明されねばならない。 三・八 大学編入 FHと大学との一番の違いは、FHにはいわゆる大学院がないということである。博士論文は大学にしか提出できない。FHの卒業生の大学への編入は無条件に認められてるが、まだ規則としては統一されていない。現在、大学の学部に編入することなく、初めから大学院に行けるよう努力がなされている。しかし、FHNで聞いたところによると、FH卒業後更に大学へ進む学生は10パーセントに満たないそうである。つまり、FHは完成教育の場なのである。逆に、理論中心の勉強について行けず、大学からFHに転学する学生は、数字は分からないが、少なからずいるようである。FHNでインタビューした機械工学科の学生がそう教えてくれた。
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おわりに
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修業年数から見て、学士(Diplom)が日本やアメリカの修士(Master)に相当するドイツからすれば、日本の四年制大学は半大学、高専は半専門大学ということになるだろう。実際、ドイツ人が日本にある大学を指してハルプ・ウニ(半大学)と言っているのを聞いたことがあるし、筆者がFHNを訪問した際も、ファルゲル女史との話の中で筆者がハルプ・ファッハホッホシューレ(半専門大学)という表現を使うと、彼女も我が意を得たりとばかり、大笑いしたものである。 参考文献 1) Studium in Deutschland…Informationen f@r Ausl@nder @ber das Studium an deutscen Fachhochschulen…5. Auflage 1996, DAAD 2) Studienf@hrer der Georg-Simon-Ohm-Fachhohschule N@rnberg 1997/98, Context-Verlag 3) Christian Bode: Kommentierte Grafiken zum deutschen Hochschul- und Forschungs- 4) Nordbayerischer Kurier(Tageszeitung f@r Oberfranken)
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