高専実践事例集V |
工藤圭章編 高等専門学校授業研究会 1998/12/20発行 |
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T 感動させます
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●物理教育挑戦記(126〜135P) 学生達を実験指導者に 藤原勝幸 長野工業高等専門学校教授 |
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物理教育における実験の位置付け |
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現在、長野高専では物理教育に関して、1年物理2単位、2年物理3単位、3年応用物理2単位、4年応用物理2単位(5学科のうち1学科を除く)の授業を開設している。1・2年の物理は高校レベルの授業内容になっており、専門科目の履修に向けての基礎学力の養成は勿論であるが、大学入試(センター試験)にも対応できる学力を身につけさせることを目標としている。従って、授業時間の大半は講義・演習に当てられ、本格的な実験を取り入れる時間的余裕はほとんどない(多少のデモ実験を実施できる程度)。しかし、物理教育が概念的なものにならないためにも、また、単に問題が解ける学生を育成するだけのものにならないためにも、学生自らの手で自然現象に触れることができる機会を与えてあげることも大切である。また、本校のような工科系の教育機関においては、実践的な技術者の養成を基本理念としているので、《もの作りができる》また《もの作りに興味が持てる》学生の養成を目指さなければならない。そのためにも実験(実習)を形だけのもの(教養程度のもの)にはできない。 そこで、本校では3年応用物理の約半分の授業時間を一貫して物理学基礎実験に当てている。実験内容については、1・2年物理および3年応用物理前半の知識だけでなく、4年応用物理で学ぶ内容にも触れるため、理論面で多少レベルが高くなっていると思われる。しかし、前倒しで現象を観察しておくことで逆に4年応用物理の授業が理論だけで終わらずに済む。実験種目については、力学系3、電気系2、音・光学系4、近代物理系4の合計10数テーマを用意してある。3年応用物理の授業は2時限2時限は50分)連続して組まれているので、1回の授業枠内(100分)で1テーマが完了できるようになっている。また、各学生が約10テーマの実験を体験できるようにしてある。
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実験に対する学生の意識・やる気 |
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最近の某大学での実験に対する学生達の意識調査の結果は、効果なしと回答した学生は約半分の45%、効果あり11%、どちらとも言えない44%となっている。最近の学生にとって実験はあまり意味のないものとして受け止められているようである。また、効果なしと答えた主な理由として「実験は単なる手作業」というのが挙げられている。確かに、学生達が行う基礎実験は結果が既に見えており、実験ではその結果に向けての手作業を行っているだけと思われても仕方がない。また、基礎実験で採用されるテーマは各分野の代表的なものが多く、なかなか目新しいテーマを取り入れることは困難である。その結果、実験そのものは平凡・地味なものとなり、それが学生にしてみれば退屈なものと感じ、自然現象探求への興味・やる気を失わせてしまうのであろう。理科離れの著しい最近においては特にそうである。しかし、実験テーマ・やり方等に問題があるにせよ、学生達にとって実験そのものはすべて講義では味わえない目新しい体験になっているはずである。事実、小学校では一つ一つの理科実験に対して、児童達は素直に反応し大きな感動を示してくれる。これは目の前でこれから起こる自然現象に対して最初から興味の目を注いでくれるからではないだろうか。では、なぜ高専・大学ではこの興味の目を持てないのであろうか。高専・大学では学生達は大人の心を持ち始め、そう簡単には子供じみた興味・感動を示してくれないことも事実ではあるが……。いずれにせよ、実験に対して如何に興味を持たせるかを検討する必要がある。要するに、実験に対する学生の意識を改草しなければならない。
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実験指導における苦しい台所事情 |
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現在本校では1クラスの実験において、2時限の枠内で教官・技官計2名が10以上のグループを指導しなければならない。これに関しては他高専・大学でも同様であろう。指導者1人当たり5〜6グループの指導を担当するとして、仮に1つのグループに対して約10分の説明を必要とすると、最後のグループで説明を行うときには既に1時限目が終了していることになる。従って、最後のグループは残りの1時限で実験結果を出さなければならない。極端な話、このグループの学生達は前半の1時限分を無駄に過ごしている可能性がある。学生達自らが実験内容の確認等ある程度まで実験を始められる準備をしてくれていれば話は別だが。他の物理教官の支援も考えられるが、これでは1教官当たりの授業での拘束時間が多くなり、結果負担増につながる。 次に、1クラスの実験指導に要する時間を考えてみる。実験準備に約1時間、実験本番で2時間、レポートチェックに約2時間、レポート再提出指導に約1時間、合計約6時間を費やすことになる。これ位の負担は当然だと言われてしまえば仕方ないが、板に1教官が3クラス分の実験指導を受け持ったとすると、学生実験に関して毎週約18時間拘束され、かなりの負担になる。何かもっと効率的な指導方法はないものだろうか。
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数年前から始めた新たな試み |
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前述したように、学生実験を効果的に実施するにあたり、検討すべき点・工夫すべき点がいくつかある。如何にしたら実験に対して興味とやる気を持たせられるか、また、限られた時間内でどのようにしたら効率良く実験を進められるか、数年前より本校物理教室で試みてきた指導内容を紹介する。 @学生自身が実験指導に当たる。 まず、一回目の実験においては、従来と同様に教官と技官が分担して各グループを回り、実験方法・装置の取り扱い・注意点等を一通りしっかりと指導する。2回目以降については、各グループから1名学生指導者を出し、この学生指導者が別のグループの実験指導を行う。当然のことながら、この学生指導者は前回自分が体験した実験テーマを行うグループに派遣される。指導者として派遣された学生にしてみれば、一度体験し実際にデータを出し報告書も作成した。 テーマであるから、ある程度までは実験内容を説明できるであろうし、多少不明な点を残しながらも早い段階で測定を開始できる。各グループ4名程度の学生で編成されているので、特定の学生に片寄ることなく順番に指導者として出向けば、4回に1回の割合で、実験期間通して合計2〜3回指導者に当たることになる。なお、学生指導者には指導した内容・指導上の問題点・感想等をまとめた指導報告書を提出させ、指導状況が把握できるようにしている。教官と技官は各グループを順番に巡回し、指導内容の確認および軌道修正を行う。このとき、並行して前回提出させた実験レポートの返却および再実験・レポートの再提出の必要がある学生に対してはその説明を行う。この指導体制で期待できる効果は次の通りである。 ◆各グループが指導者を待つことなく一斉に実験を開始できる。 A再実験においても学生が支援する。測定データにミスがあった場合、または風邪等で欠席した場合については、放課後再実験を義務づけている。このとき、やはりそのテーマを一度経験した学生がその指導に当たる。 B年度末には、実験の実技試験を行う。すべての実験種目を終了した後(1月下旬頃)、各学生にあらかじめ3テーマを課題として与えておき、この中の一つのテーマについて簡単な測定を行わせると同時に2〜3の口頭試問に答えさせる。この実技試験の結果を点数化して成績評価に入れる。実技試験の実施については実験期間の最初の段階で説明してあるので、学生にしてみればどのテーマを課せられるのか分からないため、すべての実験テーマで手を抜けない状況にあるようだ。このことが本質的に学生達のやる気を引き出していることにはならないが、少なくとも一つ一つの実験に対してある程度の緊張感を持たせている効果はあるようだ。
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学生を実験指導者に当てることの問題点 |
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教官が1回目の実験で各グループに指導した内容が、2回目以降学生指導者によって次のグループへ的確に伝えられるとは限らない。一度間違った指導が行われると、放っておけば何の疑いもかけられずにそのまま最後のグループまで伝えられてしまう可能性がある(まるで伝言ゲームのように)。当然、毎回教官が各グループを巡回する際に指導内容をチェックし軌道修正を行ったり、また指導報告書でもチェックできるのであるが、時として目の届かないこともある。従って、実験2回目以降は大なり小なりいくつかのトラブルが発生する。昨年度の本校物理実験における小・中学生にも劣るトラブル例をいくつか紹介しよう。 ◆主スイッチが入らないと困っているので調べてみると、装置の電源用コードがコンセントに差し込まれていなかった。
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指導することの大変さを知る
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学生が指導者の立場で実験に参加することは、ただ単に実験内容の理解を深めるだけでなく、いろいろな意味で勉強になったようだ。昨年度の指導報告書の感想の中から拾った主な内容を以下に列記する。( )内の数字はその感想を述べた学生の数である。 ◆指導者本人の勉強不足により、装置の使い方や作業の進め方が曖昧で手際良く指導できなかった。(13名)
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おわりに |
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今回紹介した実験における指導体制がどの程度の効果をもったか数値で示すことはできないが、少なくとも実験指導者となった学生については、実験に臨む姿勢に義務感が芽生えたことは確かである。しかし、今回の試みによって実験に対する学生の興味・やる気を引き出したわけではない。また、実験に対する学生の意識の問題を探るまでには至っていない。 今回の指導体制はあくまでも一つの試みであり、これに満足することなく実験指導に関して更なる創意工夫をしていきたいと考えている。 |
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