経済学の講義で、教師と学生達の間で交わされた会話である。学生達をA、B、Cとする。
先生‥今日のテーマは「株価を予測する」です。まず、企業はなぜ株を発行するのか、から話してみます。企業が銀行を通じて資金調達するのを間接金融といい、証券市場で株式や社債を発行して資金を調達するのを直接金融といいますね。
ところで、企業が一〇〇億円の増資をしたとします。時価発行価格を1,000円とします。一人1,000株購入すると1,000円×1,000株=100万円で、一万人集めると100億円の資金が入手できるのです。
A‥‥なぜ1,000株購入するのですか。
先生‥額面株式を知っていますか。会社設立時に発行する株式の一株当たりの金額をいいます。 会社設立の年代によつて、額面20円、50円(大半)、500円(電力、KDD等)、50,000円(NTT、DDI、JR東日本等)があります。株主権を取得するには、資産額50,000円を一単位とします。ですから、額面50円ですと株が一単位、額面五〇〇円ですと一〇〇株が一単位です。無額面株式もあります。金額表示で なく全発行株数のうち何株として表示されます。セブンイレブンが有名ですよ。
B‥‥株主になるとどのような特典があるのですか。
先生‥企業の利潤が生じたとき、配当金を受けます(利潤証券)。また、企業が解散するとき、 残余財産の分配を受ける権利があります(物的証券)。株主総会の議決権が与えられます(支配証券)。
A‥‥日本は配当率が低いと聞いていますが……。
先生‥配当を株価で割った比率を配当率といいます。93年のデータを見ますと、日本は0.79%、アメリカは2%台、イギリスは4%台です。また、配当を利益で割った比率を配当性向といいます。欧米の50%台に対して日本は30%台です。しかも、日本の多くの企業は額面主義を取っていて、額面に対して配当何%と表示しています。企業にとって株式発行は、安いコストで多額の資金を集めることができるのです。
C‥‥株を購入する方法を教えてください。
先生‥証券会社に行きます。その証券会社が持っている株を店頭株といいます。店頭株は、証券会社と投資家の相対取引で決まります。一方、証券所で取り引きされるのを上場株式 といい、立ち会い場銘柄(150種)とコンピュータで処理されるシステム銘柄があります。
B‥‥証券取引所の様子をテレビで見たことがあります。バブルが崩壊し、株価が低迷し、取引に活気がなく株価が2万円台を割った92年の時でした。
先生‥多くの人が見たことがあるのではないかな。証券取引所は正会員と才取会員からなっています。正会員は、野村、大和、日興、山一、外国会員から構成されます。才取会員は正会員の売買の仲立ちをするもので、その他の証券会社から構成されているんです。さらに、立ち会いは一日2回9時〜11時(前場)と12時半〜3時(後場)に行われます。
C‥‥私の質問はどうなったのかしら。
先生‥そうでしたね。証券会社は二つの業務をもっているんです。証券会社が自分の資金で有価証券を売買するディーラー業務と、投資家の注文を取り次いで有価証券を売買するブローカー業務です。
そこで、証券会社に行き取引口座を開設します。注文の仕方には、指し値注文と、成り行き注文があります。指し値注文では○○会社の株を1,000株600円で買う(売る)といったように、値段を指定して買う(売る)方法です。成り行き注文は値段を指定せずに買う(売る)方法です。株式を購入したら、名義変更が必要です。これを怠ると株主の権利が受けられません。
A‥‥株価はどのように決まるのですか。
先生‥第一は価格優先の原則です。より不利な条件を優先します。例えば、ある銘柄の買い注 文で650円、660円がでると660円が優先されます。売り注文の場合は逆です。また、成り行き注文が指し値注文より優先されます。第二は時間優先の原則です。時間の早いものを優先させるザラ場方式と、板寄せ方式があります。板寄せ方式とは朝9時までに出された注文は全て同一時間と見なし、売り買いを合わせて寄り付き、つまり取引開始時の株価を決めます。特定の銘柄に注文が殺到して収拾がつかない時にも採用されます。
B‥‥ニュース番組を見ていると、“今日の日経平均株価は”とか“今日のTOPIXは”と言っているんですが、どんな意味なんですか。
先生‥日経平均株価は、東証一部に上場している主要銘柄225種の一株当たりの株価を合計し銘柄数で割ったもので、アメリカのダウ・ジョーンズ社のダウ式修正法により権利落ち分を修正した指標です。権利落ちとは、株の売買の取引決済は4日目に行われますが、 4日前までに株主割り当て増資や新株の無償交付の権利に株主が応募しないことです。
その分株価が下がります。なぜなら、増資による新株発行価格が時価より安ければ、株主は新株を購入し市場で売れば利益を得ることができます。もし、この権利に応募しなければ、自分の持っている株の評価損になるからです。東証株価指数(TOPIX)は、東証一部の全銘柄を対象にした総合指数で、68年1月4日の時価総額を100と基準化し、日々の時価総額を表したものです。
また、“今日の東京証券取引所の出来高は”とよく耳にしますね。売買取り引きされた株数を表しています。出来高が高いことは、それだけ売買が盛んに行われたことを示しています。ところで、平成8年3月27日の日経平均株価は2万1329円、TOPIXは2020ポイント、出来高は650,644株です。
C‥‥株を安く買い高く売るとキャピタルゲインが得られるのは分かるけど、安くなるとか高くなるとか予想するのは難しいのよね。
先生‥まず、経済のファンダメンタルな要因から理解しよう。株価決定の四つの要因として、
?経済外的要因…国際情勢、国内の政治社会の変化など
?一般経済要因…景気動向、GNP、為替レ−ト、金利水準、マネ−サプライなど
?収益要因…当該企業の収益、業績見通し、研究開発など
?市場内部要因…機関投資家の姿勢、投資信託の動き、企業の資金調達(エクイティファイナンス)の動向などが考えられます。
ここに、96年1月6日の日経新聞の記事を持ってきたんですが、村山首相辞任が伝わると株価が上昇している。橋本首相の景気刺激策、税制改正に期待して、前場終値比 168円高になっている(ページ図1)。ブラックマンデーのことは知っているかな。
87年10月19日月曜日ニューヨーク証券取引所の株価が508ドル大暴落し、翌日東京証券取引所でも3826円大暴落したんだ。原因はアメリカ経済の双子の赤字(貿易 赤字、財政赤字)に対する不信感、先進国協調体制の足並みの乱れだと言われている。ところで、景気と株価の関係、金利と株価の関係、為替レートと株価の関係はどうなるんだろう。
C‥‥景気が良くなり企業の業績が上がると、増配などを期待して株価が上がります。
B‥‥金利水準が下がると企業の利払いが減り、利益が増大し株価が上がるんじゃないですか。金利水準が上がるとリスクの大きい株式に投資するより、より有利な金融商品に投資するので株価が下がる。すると、株価と金利水準とは逆の関係があることになる。
先生‥その通りだね。為替レ−トと株価の関係はどうだろう。
A‥‥円高になると、自動車、電気、機械などの輸出産業は痛手を被る。でも、輸入物価が下がり内需が拡大すると株価にもプラスに影響する。分からないなー。
先生‥そうだね。ニクソンショックの時、円高は輸出価格を引き上げ株価を下げたし、プラザ合意の時は、円の通貨の価値が高まり資金が流入し、金利水準を下げ株価を引き上げたんだ。だから、分からないんだ。参考までに、景気変動と株式価値を参照してください (ページ図2)。
ところで、紙面の株式欄を見たことがありますか。銘柄、始値、高値、安値、終値、前日比、売買高とありますね。それぞれの意味は分かりますよね。そこで、株価の動きを表すチャ−ト(ケイ線)を描いてみましょう。これらの手法をテクニカル分析と言います。ここでは、ケイ線のうちロ−ソク足だけを取り上げます。
左側を陰線、右側を陽線と言います。図3は95年12月から95年1月の日産自動車のロウソク足です。そこで、終値のデータをもとに移動平均を描いてみましょう。
終値は次の始値に影響します。移動平均は次の式で求められます。例えば、五日移動 平均の場合Ptを今日の株価の終値とすると、
Pt+Pt+1+Pt+2+Pt+3+Pt+4
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で求められます。株価の移動平均線はグランビルが考案したもので、期間の取り方で短期線(25日、5週)、中期線(75日、100日、13週)、長期線(200日、26週)などがあります。ここでは5日と10日をとり分析してみましょう(ページ図4-1)。
期間が長いと日々の株価の動きがより平準化され、曲線が滑らかになりますね。期間が 長いと、相場の転換点を確実に把握できます。しかし、現実の相場の動きに即応ができず、相場に出遅れるケースがしばしばでてきます。一方、期間が短いと相場に即応できても、信頼性はずっと低くなります。また、移動平均より株価が下に位置する場合評価損となり、投資家の買った価格前後まで株価が回復すると売り注文が増えると考えられます。逆に移動平均より株価が上に位置する場合評価益となり、投資家心理が強く現れ買い注文が増えます。参考までに、グランビルの提唱した売買信号を示しておきます(図4−2)。ぜひとも覚えておいて欲しいことがあります。中期線が長期線下から上に突き抜けるとき「ゴールデンクロス」といい、買い方有利の相場になります。一方、中期線が長期線を上から下に突き抜けるとき「デッドクロス」といい、売り方有利の相場になります。
B‥‥「ゴールデンクロス」や「デッドクロス」を探してみよう。
先生‥出来高の話はしましたね。出来高と株価の相関図を描いてみると、面白いことが発見できるかもしれません。逆ウオッチ曲線による売買信号を参考にして、状況を読み取ってください(図5−2)。ここでは日々の株価の代わりに、十日移動平均株価で描いてみました(図5−1)。
先生‥ついでに、移動平均線から日々の株価がどの程度離れているかを乖離率と言います。
式で表すと、
(株価−移動平均値)/移動平均値
で求められます。経験的にプラス・マイナス四%以内であれば、相場は安定していると言えます。75日移動平均ですとプラス・マイナス7〜8%、200日移動平均ですとプラス・マイナス10〜15%を超えると相場は行き過ぎと判断され、逆方向に変わる修正局面を迎えるケースが多いのです。バブルのときの乖離率を調べてみると面白いかも知れませんね。5日と10日の移動平均の乖離率のグラフを示しておきますので、みなさんもコンピュータでバブルの時期を同じように分析してみてください(図6)。
先生‥株価が上昇、下降、横ばいのいずれの方向にあるか簡単に知る方法として、トレンドライン(趨勢線)があります(図7)。トレンドを使って株価を分析する手法を、トレンド分析と言います。株価が上昇トレンドに対し下方への動きを示せば、売り転換となります。逆に、株価が下降トレンドに対し上方への動きを示せば、買い転換となります。ところで、株価が大底のとき買い、天井のとき売れば効率の良い株式投資になります。
ですから、大底や天井について研究されてきています。一般に知られている天井型に 「三尊型」「毛抜き型」があり、大底型に「逆三尊型」、「ダブルボトム型」があります(図8)。
そろそろ時間がきました。「株価を予測する」というテーマでお話ししましたが如何でしたか。
A.B.C‥コンピュータでデータ分析するのは面白いと思いました。
先生‥株価を実際予測するのは難しいことです。株価についてそれぞれ人の期待も違います。ここでは複雑な株価の動きをよりシンプルに捉える手法を述べてみました。
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