工藤圭章編 高等専門学校授業研究会 1996/7/20発行 |
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U もっと知りたい
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●学生の専門知識を活用する英語教材(224〜235P) 専門英語への架け橋 飯野一彦 群馬工業高等専門学校助教授 |
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はじめに | |||
平成元年に沼津高専を主管に発足した教育改善プロジェクトは、その中間報告書「オーラル・コミュニケーションを重視した英語教授法の研究」(「沼津工業高等専門学校研究報告」第二十五号)の中で、これからの技術者に要求されるコミュニケーション能力は、主に一般英語力と専門英語力にあると指摘した。翌年、同プロジェクトはそれまでの議論を基に、まず一般英語力の向上を目標に、カリキュラムの改訂を含む、抜本的な英語教育の改革を目指した実践を沼津高専で試みた。この試みは、最終報告書「オーラル・コミュニケーションを重視した英語教授法の研究U―実践と今後の課題―」(「沼津工業高等専門学校研究報告」第二十六号)にまとめられているが、高専の一般英語の教育方法のひとつの方向性を示すものであると言ってよいだろう。しかし、同プロジェクトは、検討期間が二年間という時間的制約のため、さきに挙げた英語力のうち、後者の専門英語力の向上のための実践の試みは、残念ながら今後の課題として残した。 そこで本稿では、さきのプロジェクトのメンバーのひとりとして、この残された課題である専門英語力向上の一助とするために、私がこれまで作成してきた教材を紹介することにしたい。
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手作り教材を目指して |
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プロジェクトでの提言を含め、高専における専門英語力の必要性は多くの機会に論じられているが、これまでに提案された教材や実践報告の数は少ない。一般英語のおびただしい数の教材や実践報告に比べるとまさに雲泥の差がある。こうした中で長野高専の六川信氏を中心とするグループが、工学を専攻する大学生と高専の上級生を対象に出版した教科書(六川・他編著『科学英語演習』一九八七年、『生きた科学英語』一九九三年、ともに朝日出版刊)は、専門英語を扱った数少ない教材例である。これらの教科書は、コンピュータ、宇宙開発、クルマ、エネルギー問題など、まさに高専生が興味を惹かれる話題を題材に、英文の読解、その英文に関わる文法事項の整理、さらにそこから発展させた和文英訳の練習問題などを中心に構成し、巻末には科学技術の専門用語のリストも載せ、語彙力の伸張にも配慮している。このふたつの教科書の特徴は、読解用の英文にも会話文を数多く採用し、また文法整理の問題にも、学習者に会話を意識させる態勢をとったことにある。これは、著者たちが独自に調査したデータを基に、高専卒の技術者に必要な英語力は、基本的な会話力が第一であるという分析を踏まえて作られたからである。両教科書は、リスニングの練習問題がない点で不満は残るものの、専門英語教育の観点から言えば、ニーズ分析を踏まえた上で開発した教材という、高専における専門英語教育教材のひとつのあり方を示唆するものとして評価できよう。しかし、出版という形をとることの宿命であろうか、体裁を整えることにとらわれたためであろうか、各レッスンの練習問題の構成がワンパターンになり、タスクの多様性という点からやや物足りないところもあるのが惜しまれる。また、細かな点で、実際に教えるクラスの学生の英語力と教材レベルが必ずしも一致しにくいところもあることから、やはり、現実に教えている学生のレベルやニーズを直接肌で感じている授業担当者の、さらに多様性に富んだ手作り教材の開発があってよいだろう。 |
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リーディング教材 |
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リーディングは、日本の英語教育では最も重点的に指導している技能であり、また、私が数年前に行った調査「群馬工業高等専門学校教官の英語教育に関する意識調査」(「群馬高専レビュー」第五号)でも、各専門学科の教官が英語教育に最も期待している技能でもある。限られた時間内で、より効果を高めるリーディング指導が求められているが、高専においてすらも、あいかわらず旧来の文法訳読方式から抜け切れていないのが現状ではないだろうか。そこから一歩脱却したように見えても、ある分量の英文を読ませて、内容についての質問に答えさせたり、いくつかの英文を用意しておき、本文の内容と一致するものを選ばせたりする等にとどまり、従来からの工夫から大きく抜け出たものが少ないように思われる。 こうした現状の改善を目指した例が、次のページの教材1である。これは、英国におけるエネルギー資源について、学生が英文を読んで、グラフのA〜Eにあてはまるエネルギー資源の名前を書き出すようになっている。スキャニングやスキミングと呼ばれる、テキストにざっと目を通して必要な情報を拾い出す技能を伸ばすためのリーディング教材である。 リーディングというと、本やテキストを最初から順に日本語に訳していくことだと考えられがちだが、実際に、私達が日常生活で体験する「読む」という行為は、そういうものだけではないだろう。小説などを読む場合は別としても、日常において何かを読むという行為は、何か欲する情報があり、それをまず見つけることから始まる。例えば、朝の忙しい時に、新聞を一面から最終面まで、順にすべてを読む人はまずいない。見出しをさっと見て、興味のある記事だけを拾い読みするのではないだろうか。「読む」とは、こうした意味の「読む」がきわめて多いであろう。 これを考えると、スキミングやスキャニングの技能を取り入れた教材をもっと使用してもよいのではなかろうか。もちろん、例示した教材1が不十分のようであれば、次のような英語の質問、Why has natural gas become of increasing importance? Why are oil, coal and natural gas called 'high grade' energy scouce? 等を加えて授業を進めることはできる。 しかし、この教材1の要点は、英国のエネルギー資源の割合を読みとってグラフに移し変えることでほとんど目的を達していると考えられるので、これができれば次の教材を提供し、またそれが終わったら次の教材に移るというようにして、多量に読ませ英文に慣れさせようという教師の態度が、さらに効果的な読みの指導につながるのではないかと思う。
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ライティング教材 |
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これまでのライティングの指導は和文英訳が主流であったが、最近になりパラグラフ・ライティングという、ある程度まとまった量の文章を書く指導が注目され、一般英語では、すでにこの概念を取り入れた教材も現れている。しかし、専門英語を扱った教材には、まだ、パラグラフ・ライティングを取り入れたものは少ないと思われる。「書く」という行為は、日本語でも創造力を要する、たいへん骨の折れる作業なので、ましてや、英語においては、なおのことである。したがって、英語で「書く」という行為は、与えられた日本文を英語に直す練習だけでは、積極的な態度が養われないであろう。
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リスニング教材 |
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私オーラル・コミュニケーション能力の重要性が叫ばれて以来、一般英語に関して言えば、リスニング教材は近年、市販のものから、手作りものにいたるまで、多彩で良いものが見られる。すでに言及した教育方法改善プロジェクトの研究成果が生みだした、小町谷恩著「コミュニケーション重視の英語教育と教材」(工藤圭章編『こんな授業を待っていた―高専実践事例集』高等専門学校教育改善プロジェクト刊)が示すリスニング教材などは、高専の一般英語にとって、身近な話題を題材にした、手作りリスニング教材の良い例である。しかし、専門英語に合ったリスニング教材となると、いまだないと言ってよいだろう。 |
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