高専実践事例集
工藤圭章編
高等専門学校授業研究会
1996/7/20発行

   


  
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 ●学習のメディアを変える(198〜207P)

  CAIを用いた英文要約の授業        小町谷 恩  前沼津工業高等専門学校教授

     
   はじめに  
   

  従来から、高専の英語教育における問題点として、学生の学習意欲の低さが指摘されてきた。豊橋技科大の調査によれば、高専一年の時に英語嫌いになる者が特に多いという。平成元年度から平成三年度にわたって、沼津高専を中心校として教育改善プロジェクト「オーラル・コミュニケーションを重視した英語教授法の研究」が行われたときも、先ず話題になったのはその点であった。高専の英語教育は本質的な意味でそのニーズに合致しておらず、概して高等学校等において行われてきた伝統的な授業を抜け出ていない点に大きな問題があると指摘された。高専こそ、学生の将来のニーズに基ずいて、「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能の活動をバランス良く取り入れた真の英語教育を行う必要があり、またそれを行うのに相応しい場ではないかという結論になったのである。
 高専生に必要な英語力は@一般英語、A専門英語、B異文化理解の力であり、一般英語の学習方法は@学習者中心、A課題学習中心とし、教材面では実際的場面に基づく教材(Authentic materials)を重視する必要があるとした。このような考えに基づいた授業を、沼津高専では平成二年、三年にわたって一、二年生全員に実験的に行った。その結果は既に公表されたところであるが(国立高等専門学校協会教育方法改善専門委員会英語部会 一九九二 オーラル・コミュニケーションを重視した英語教授法の研究、高専教育特集号「21世紀に向けての高専教育」57−78)、一年の初めと、終わりと二度実施した意識調査の中で、特に学習のモチベーションに関係する「英語は好きか」という質問に対する反応の結果を抜き出したのが表Tである。

表T
┌──────────────────────────────────────────┐
│ 「英語は好きか」 │
│ [平成2年4月.(一年生)] │
│    英語は好き 8.6% どちらかといえば好き 47.4% │
│          普通 24.3% 嫌いな方 14.5% 嫌い 5.3% │
│ [平成3年2月.(一年生)] │
│     英語は好き 7.5% どちらかといえば好き 44.4% │
│          普通27.5% 嫌いな方 14.4% 嫌い 6.3% │
└──────────────────────────────────────────┘

 この結果ではほとんど低下が見られない。また表Uは「入学以来英語が好きか嫌いかの度合いは変わったか」という質問に対する反応を示している。

表U

┌──────────────────────────────────────────┐
│ 「入学以来英語が好き嫌いの度合は変ったか」 │
│ 大分好きになった 6.3% 少し好きになった 28.1% 変らない 45.0% │
│ 少し嫌いになった 16.9% 大分嫌いになった 3.8% │
└──────────────────────────────────────────┘

 その結果では「好きになった」割合は「嫌いになった」割合より多かった。このような点から見ても、この授業はモチベーションの面に寄与するものがあると考えられる。
 しかし「オーラル・コミュニケーションを重視する英語教育」と言えば、英語を「聞くこと」と「話すこと」を主に行うのだという誤解があるが、決してそのようなことではない。「読むこと」も「書くことも」等しく行うのであり、とくにマルチ・メディアの環境では、そのことは新しい文脈の中で重視される必要がある。重要なのは四技能を出来るだけ関連づけ、バランス良く学習させることを通じて、高学年に向けて必要な学力へ発展させていく必要がある。そのためのチョイスは多様であり、様々な個別的な実践や研究を必要とするものと考えられる。

 

   英文要約の授業とCAIの利用
   

 「読み」の面でも色々な可能性があり、高専でも様々な取り組みが報告されているが、ここでは筆者のささやかな試みを報告したい。
 平成四年度と、五年度入学の一年生に二年の前期にかけて、EAST・WEST Bk.1 (OUP)をテキストとして使用したが、各課の最後にMoon of India という続きの推理物の読み物教材が載っていた。話も面白いが、非常に魅力的なテープが付いている。授業全体の構成の中で、授業は直読直解を目指すことにした。先ずテープを聴かせた後、内容についての英問に英語で答えさせた。授業は一応これで楽しく進行するのであるが、これだけでは内容の理解は平面的、表面的になりがちである。もっと構造的な「読み」が欲しいしころである。以前の経験では、要約の学習を行わせることによって内容の理解も深まり、要約の方法マスターした者はコミュニケーションの力をかなり付けていることが観察された。そこで今回も要約の学習を取り入れることにした。
 しかしただ学習者に要約を言わせるだけでは、あまり進歩が見られなかった。英語の出来る者は何でも言おうとして要約にならず、不得手な者は一言二言話すと先へ進まないということになり勝ちであった。研究の結果、英問英答により要約のポイントを学習する導入の後で、要約を行わせるのが効果的であることが分かった。しかし問題点は、限られた時間内で多くの学生にこの作業を行わせるのが困難なことである。当てられた学生の他はただ見ていて間接的に学習することになる。この問題を克服するため、今回はCAIを利用することにした。
 CAI(Computer Assisted Instruction)とはコンピュータ利用の教育のことであり、最近はそれを言語教育で行った場合を特にCALL(Computer Assisted Language Learning)[キャル]と呼んでいる。沼津高専のCAI設備は前述のプロジェクトと関連して、平成三年度校長先生を始め各学科のご理解を得て一般設備費により設置され、その後情報処理教育センターに移管され、情報処理教育を兼ねて使用されている。ハード面はサーバー兼用のアップルコンピュータMacin-tosh U si 一台とMacintosh LC 22台をベースにネットワークを組んだシステムであるが、一部は最近更新された。
 使用したのはWIDA社のアップルコンピュータ用の五つのソフトである。いずれも編集可能なソフトで、プログラムの作成には通常のワープロ使用の技術があれば充分で多くの時間を要しない。また、柔軟性がありさまざまな課題の形式を組み込むことが可能で、ヒントを付したり、大文字小文字の区別などの条件を与えることもできる。以下各ソフトについて簡単に説明する。

MATCHMASTER  同意語とか反意語など関連した情報同士を組み合わせるソフト。文の前半後半とか、会話の応対とか応用範囲が広い。学習モードも三つありゲーム感覚の学習が可能である。

GAPMASTER クローズ・テストの問題形式。解答は複数用意できる。文を入れる問題の作成も可能。ヒントを与えることもできる。

CHOICEMASTER 多肢選択問題のソフト。五選択肢まで可能。ヒントやメッセージも付けることができる。

TESTMASTER 設問に対する答をタイプするソフト。答は四つまで用意でき、それぞれについて省略やさまざまな代替表現を組み込むことができる。ヒントやメッセージを付けることもできる。

STORYBOARD まとまった英文の再構成のソフト。画面に文字が小さな黒丸で表示され、それれを単語をタイプすることによって再構成するソフト。同じ単語は画面にすべて同時に表示されるので、暗号の解読に似ていてゲーム感覚で学習できる。

 いずれのソフトでも学習の結果をスコアーとして見ることもできる。
 教材構成は各課とも導入の問題と、要約文再構成の問題からなっている。導入の問題でその課の重要な情報を学習するようにし、課題は上記のソフトのうち最初の四つを用いて作成した。その情報によって要約文も構成されるが、要約文再構成の課題はすべてSTORYBOARDを用いて作成した。
 授業では最初の三課は英問英答だけで行い、直読直解型の授業に慣れさせた。四課から七課までは主として英問英答で物語を理解させたうえで、次の授業時にCAIを用いて要約の学習をさせた。MATCHMASTER, GAPMASTER,CHOICEMASTERによって作成した、比較的易しい導入の課題を学習した後、学生はSTORYBOARDによる要約文再構成の課題を学習した。八課から最後の一四課では、導入の課題はすべて質問に対して答をタイプするTESTMASTERによる課題であり、それに答えた後、STORYBOARDによる要約文再構成の問題か、要約文を自分で書く課題を課した。
 なお、最初の段階でコンピュータの操作やCAIのファイルの開き方などを教える必要があるが、これはTeam teachingの授業で行い、当時在任した外国人教師グレゴリー・ウェンドフェルト氏がテレビにコンピュータ画面を表示しながら英語で説明した。
 このCAIの学習は「読み方」から「書き方」という方向で行われるが、授業全体として見ると四技能の活動が含まれることになる。

   授業の結果
   

 学生のこの授業に対する興味やモチべーションは極めて高く、集中的積極的な学習が見られた。またこの学習による他の授業時への波及効果も認められた。
 次ぎは、学生の書いた要約文の内ウェンドフェルト氏が最も良いとして選んだものである。

It was the evening of April 26. People were dancing in the Ballroom. Christina was wearing a Cleopatra costume. Agatha was wearing a costume of the Queen of the Night. Frank was wearing a James bond costume. Robert entetred carrying a tray of drinks. He was wearing a waiter's costume. He spilled a drink on Agatha's dress.
Agatha went to the ladies room, Agatha saw someone wearing a man's suit. It was Lucy. She was wearing an Al Capone gangster suit. She was carrying a gun. The gun looked real and Agatha was frightened.
One person entered Agatha's cabin while most people were enjoying the ball. The person looked behind the painting for the MOON OF INDIA. But the person couldn't find it, threw the painting down and left the cabin.

 CAI利用の授業について、この授業の終結の時期の平成六年六月に感想文(記名)の提出を求め、また、同七月に質問紙(無記名)に答えてもらった。なお授業中はCAIという言葉は使わず、「Macintoshの授業」と呼んでいたので、質問紙もそれに従った。表Vは質問項目の中で授業に対する興味に関するものの結果を抜き出したものである。
 「英語は好きである」に対する学生の反応は平成二年、平成三年のアンケートの結果と似ているが、A(大いに一致している)に当たる反応が大きく増加している。「Moon of Indiaは面白い」はさらに肯定的な反応が多くなっているが、学習のモチベーションに及ぼす教材の役割の効果を示しているようである。また、CAIの授業については82.5%もが面白いとしている。感想文の中には次のようなものもあった。
 「はじめは、とても緊張したけど、今ではもう大部慣れ逆に『楽しみ』にもなりました。僕はこの学校でこのような授業を期待していたのでよけいに嬉しいです。他の授業でも取り扱ってほしいです。やはり高専らしい授業のやり方をしなくてはがっかりさせられます...」
 この意識調査の細かいデータについては、「小町谷恩 一九九六 英文要約の指導のためのCAIの利用, 全国高等専門学校英語教育学会研究論集 15,23−32.」をご覧いただきたい。

 表V

┌───────────────────────────────────────────┐
│ 次のそれぞれの文があなたの考えや気持ちと一致しているかどうか、次の記号で答えなさい。 │
│ A.大いに一致している │
│ B.ほぼ一致している │
│ C.どちらとも言えない │
│ D.あまり一致していない │
│ E.全く一致していない │
│ *英語は好きである。 │
│ A 22.5% B 30.0% C 25.0% D 17.5% E 5.0% │
│ *'Moon of India' は面白い。 │
│ A 37.5% B 40.0% C 22.5% D 0 % E 0 % │
│ *Macinを使った英語の授業は面白い。 │
│ A 52.5% B 30.0% C 10.0% D 7.5% E 0 % │
└───────────────────────────────────────────┘

 

   終わりに
   

 高専の特徴を生かした教育内容と方法が求められているが、CAIはその一つとして効果的であろう。学生が平常専門分野で行っている活動を、教科の学習活動に結びつける意義は大きいと考えられる。事実、今回の試みにおいても学生は高い学習へのモチベーションを示した。
 現在英語の学習において求められているのは、広い意味におけるコミュニケーション能力である。その基礎的学習力を養うには自主的積極的に取り組んで作業する課題が必要であるとされる。CAIの課題にはそのような学習の構造を持たせることが可能であり、コミュニケーション能力の育成に役立つものと考えられる。
 CAIの利用に関しては、一つの授業全体で使用するより、その授業の中の必要なところ、学習方法が適したところで使用するのが効果的だと考える。どのような良い教材、どのような優れた教育方法であっても学習者は飽きるものなのであって、その飽きの要素を無視することはできない。そのためにこそ教師の様々な努力、工夫が必要になるのであるが、適切な箇所で使われてこそCAIもその効果を生ずるものと考えられる。
 今回の試みでは、使いやすい基礎的なソフトを使って教材を自作し、平常の授業と結びつけてCAIの授業を実施したが、基礎的なソフトでも十分役に立った。最近マルチ・メディアの利用等、高度化したCAIの研究に取り組む教師が出てきたのは望ましいが、あまりに専門化して一般の教師の教育活動とかけ離れたものになる危険性にも留意する必要があると思う。基礎的なソフトの利用の経験は高度な教材の作成にも役立つのではないかという印象をもった。
 高度情報化時代を迎え、CAIにも多くの可能性が予想される。インターネット、とりわけ四技能の活動と関連性のある、WWW(World Wide Web)の教育的データ・ベースとしての豊かな可能性が指摘されている。その一方で氾濫する情報の中に埋没してしまう危険性も危惧されている。いかなる情報をどのような学習活動に結び付けて教材化していくかという、新しい教材論が必要となる時代がきているのではないだろうか。

 

   
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